繁忙期の仕事は、片付けても片付けてもやってくる。
激務に追われ、サガはすっかり疲れ切っていた。
目は霞むし、肩も痛む。いや、肩だけでなく身体の節々が。
もう無理のきかない年だな、些か早い気もするが。
サガは苦笑した。
一日のほとんどを仕事に費やすようになって早一ヶ月。
部下たちは主の疲労困憊振りを知り案じつつも、彼を中心に回っている
仕事に差し支えるといけないので何も言いだせずにいた。
「サガ、顔色悪いよ。本当に大丈夫?」
「ああ。気にするな。それよりも休みが取れなくてすまないな」
血管が切れて充血している目を瞬きつつ、サガは夜食の差し入れに来た恋人のに詫びた。
―寂しい思いをさせていることは、わかっている。
自分だって、休みが取れたらと思い切り気分転換したいのだが。
「ねえ、サガ。サガこのままじゃ死んじゃうよ。お願いだから少しでも休んで」
「…」
責任感は人一倍強く、部下に仕事を丸投げすることもできないので、仕事は溜まる一方。
そんな恋人を誰よりも案じているは、サガに「ねえ、今日くらいは仕事早めに終わらせて、うちにおいでよ」そんな話を持ちかけてきた。
ヒーリング
一人暮らしのの家に上がるのは、一か月ぶりだ。
サガは覚束ない足取りで、の後をついて歩いた。彼女のマンションに着くまでに倒れないといいが、
そんな杞憂もあったが、どうにかして玄関に辿り着いた。
安心感からか、どっと疲れが出て、サガはに支えられるまま、その場に座り込んだ。
「サガ…今日くらいはゆっくり休んでね」
「あぁ。すまないな、」
仕事着を脱ぎ捨て、上半身裸になるのも、気を許したの前だからで。
「サガ、すぐにお風呂沸かすから、休んでてね」
がそんなことを言ってきたのが、耳に届くか届かないかで、サガは四肢を投げ出しその場でまどろんでしまった。
「サガ、サガ」
「ん…」
頭に僅かに走る痛みに、眉をしかめながらサガは身を起こした。
の顔が目の前にあった。
「お風呂湧いたよ、疲れてるでしょ、今日は私が背中流してあげるから」
が少し頬を赤く染めながら言った。
「…ああ。すまないな、」
普段は明け方に自分のマンションに戻り、シャワーを浴びるくらいでろくに疲れが取れていなかった。
身に着けていた服を全て脱ぎ捨て、サガはバスルームに入った。
がそのあとすぐ、一糸纏わぬ姿で続いた。
「ふう…」
「どう、サガ、気持ちいい?」
「あぁ。疲れが取れる気がする」
柔らかな、きめ細かな泡が背中を滑る。
のマッサージは絶品だ。付き合っている自分だけの特権だと思う。
固く張った肩の凝りも強すぎず弱すぎない力でほぐされていく。
の手が、やがてサガの胸にまで行きわたると、サガはその手をぎゅっと握りしめた。
「…」
「あっ…ダメだよサガ、まだ途中」
「私に我慢をしろと言うのか、それなら無理な相談だ」
くるりとのほうを向くと、サガは不敵な笑みを浮かべ、彼女の身体を抱き寄せた。
「…暫くご無沙汰だったからな。」
柔らかな肌に指を這わせると、は小さく悲鳴を上げた。
その声を聴いただけで、サガの理性の緒がぷつりと切れる。
「抱きたい。」
は抗わなかった。
と唇を重ねながら、手は彼女の程よく膨らんだ胸に触れた。
どくん、心臓が高鳴った気がした。
もう一人の自分が、欲しい、と渇きに似た欲望を露わにする。
大切なを優しく抱きたい気持ちと、壊れるくらいに奪いさりたい気持ちが交錯して、サガは彼女をかき抱いた。
「お風呂…せっかく沸かしたのに」
「ならば、一緒に入るか」
身長の高い、尚且つ筋肉質なサガがと一緒に入ったせいで、湯船からは湯が一気にあふれだした。
程よい温度の湯の中で、サガはを自分の膝に乗せて一息ついた。
「…私も相当疲れていたらしい。今は、心地良い」
「そう?ならよかった」
は本当にうれしそうに笑って、サガのほうを振り向くと唇を重ねた。
「」
「続きは、ちゃんとベッドでね。途中で寝ちゃうかもしれないけど」
を胸に抱き寄せると、「そうだな」サガは微笑んだ。
今はもう少しだけこうしていたい気持ちが、欲望を抑えていた。
おわり
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