運命の出会いなんて、そんなものある訳ない。
その人に出会うまでは、そう思ってた。
夢幻協奏曲〜ending〜
死の国―冥界に行く途中、はサガを酷く案じた。
自分がサガのすべてだなんて傲慢な考えはなかった。
ただ、優しい彼の事、自分の身に降りかかった不幸を嘆き悲しみ、心に傷を負ってしまうのでないだろうか。
そんな事を、思った。
あの場所で命を落としたのは、自分の運命だと、今は思う。
理不尽な運命。けれど、それはきっと自分が生まれてきたときから定められてきた運命なのだ、と。
サガに私は―何かを残せたのかな。
自分の運命を呪わずとも、サガと離れ離れになってしまったこの魂を嘆く事はあった。
どうか。女神の慈悲を彼に。…は現世に降り立ったという女神アテナに祈った。
彼が抱える心の葛藤を―どうか。
生きている時、サガをはいつも見守れる位置にいた。
しかし今、サガを見守ることのできない場所へ旅立とうとしている。
成仏できない、と言ったらそれまでだけれど―。
天国に行けなくてもいい。そんな事はわかっている。
けれど、彼をどうか見守って居たい。
はそう思いながらも、黄泉への道を歩くことを、強要された。
サガ―。サガ。
私の大切なひと。
誰よりも繊細で、優しくて、傷つきやすい心を持ったひと。
彼が傷つくさまを、見て居られなかった。
心の奥に傷を仕舞い込み―闇を抱えてしまう彼が気がかりだった。
いつか、いつか。
また巡り合い、互いを想うことは許されるんだろうか。
の魂は一筋の光となり、現世を飛び立った。
新しい命として、この世に降り立つために。
は生まれ故郷の日本で、新しく「」という少女として命を授かった。
当然前世の記憶などない。
サガが知らぬところで―彼が最も苦しんだ13年間を、普通の少女として育った。
一方サガは、相変わらず善と悪の間でもがき苦しんでいた。
それはサガの素要でもあったが、悲しく辛い出来事が引き金となってどんどんその心の闇は大きさを増した。
「。…」
思い出したように呟く。
あれから片時だって彼女の事を忘れたことなんて、無かった。
悲しい恋の終わりは、いくら時が経っても忘れられるものではなかった。
世界を手にすると息巻く「悪」に反比例し、サガは一時も早く自分の身が裁きを受けることを願った。
罪を重ねた自分には、のもとへ行く資格なんてないのだろうけれど。
玉座に坐し教皇として振る舞う自分の姿。
それを望んでいたのはほかでもない、この自分。
しかしは言ったのだ。―教皇になることで、自分はサガに近付けなくなると。
その言葉通り、は自分から手の届かないところへ逝ってしまったのだが。
やがて、女神を守る聖闘士たちが、サガの反乱に気付き、自分を斃そうと十二宮を突破して来た。
辿り着いたのは、僅かに二人だったが。
「心の悪」と少年たちの戦いは熾烈を極めた。
彼らを傷つけるたびサガの本当の心が痛んだ。
彼らは最後までサガを倒すことはできなかったけれど―女神を救う盾を持って自分の心を、浄化してくれた。
サガは全ての罪を詫びるために、女神の前で自ら命を絶った。
サガの魂は女神の慈悲によって、遠き国「日本」へと降り立った。
これからまた、戦いによってこの世に再び生を受ける日も、或いはあるかもしれない。けれど。
今は―に会いたかった。ただ、彼女を愛する一人の人間でありたかった。
。
紛れもない、の姿を認めた時、サガの魂は彼女に触れようと降り立った。
ほんの一瞬だけ、サガは再び彼女と会い―触れることを許された。
また会おう。
魂から直接語りかけることによってサガはに言葉を残した。
その思いは彼女に届いたのかどうか。
は涙を流した。
―幸せだった記憶。
儚くて悲しかった記憶。
一瞬だけれど、その記憶たちが胸を支配したから。
―また会いましょう、サガ。
そう応じたのは、自分の中の記憶。
は温かな光の塊を、大切そうに手に収めた。
光が完全に消えてしまうまで。
おわり
後書き:反転
暗い連載でしたが、サガの心の葛藤を掘り下げることで彼の内面を描こうと思いました。
エンディングは分かり辛い最終話のフォローと思っていただければ。
何かを感じていただければ幸いです。
戻
|
|