「はい、サガの寝る部屋はカノンと一緒ね」
fated〜同居人〜
に促され、部屋に入ったサガは複雑な心境だった。
何しろ、13年間も離れて暮らした弟と寝所を共にするのだ。
すれ違いが生じることは覚悟せねばならなかった。
しかしながら、の住まいは決して広いわけではない。
の眠る部屋に立ち入ることも、憚られた。(当然の事だ。年頃の娘と共に寝るなど、サガの良心が許さなかった)
宛がわれた部屋のベッドは二人用。
「私は、カノンと一緒に寝なければならぬのか…」
むう、小さくサガは唸った。
幼いころはそれなりに仲良く、一緒に寝ることは当然の事であったが、その記憶も薄れる28歳の今である。
「冗談はやめろ、。俺はこんな兄と一緒に寝るなどと言う事は御免だ」
カノンが抗議の声を上げた。
はそれで、気まずそうに言った。
「でも…寝る部屋は二つしかないし、ベッドだってお父さんとお母さんが使っていたやつしかないし」
「なに?お前の親が寝ていた部屋だと?」
夫婦睦まじく暮らしていた思い出の眠るこの部屋を、水と油の自分達兄弟が使うことは何だか申し訳ない気がして、サガはまた唸った。
「…うむ。しかし、ここに来たのはカノンが先だな。私は床に布団を敷いて寝ることにする。カノン、それで異存は無かろう」
「…ふん、勝手にしろ。」
「二人とも…仲良くしてよー…」
が困ったように言った。
学校に通っているとはいえ、は両親を早くに亡くし、親戚の援助で暮らしているという。
寂しく独りで過ごしてきた家が、双子の登場で一気に賑やかになった事を、心から嬉しいと感じている、は二人にそう言って聞かせた。
それで二人とも黙りこんでしまった。カノンは初めて出会い手当てを受けたその時から、サガはこの家に招かれてから、それぞれには好意を寄せているのだが、彼女が自分たちのせいで悲しむのは何だかやるせなかった。
「…。悲しむことはない。私たちは双子だ。仲が悪い筈が無いではないか」
「…そ、そうだぞ。。気にするな」
意思の疎通が早いのも一卵性双生児の所為かもしれない。
この場はに免じてお互い一時休戦、そう判断した。
「…そうだよね。私兄弟居ないから、二人を見て羨ましいって思ったんだ。二人とも、これから仲良く暮らそうね」
ニコッと笑うの笑顔は、二人には眩しく映った。
サガは今まで女性を殆ど近づけず(ただし、黒い方の人格は別。白い方のサガが引っ込んで居る間に散々女を楽しんでいた)、カノンは15歳でスニオン岬の岩牢に封じられるまでは早熟で何人もの女性と関係を持っていたが、この様な無垢で世間ずれして居ない女子を相手にした経験は皆無だったのだ。
…愛らしいものだ。
サガは胸を押さえ、カノンは口の端が自然と上がるのを感じた。
双子ゆえに想った事はやはり一緒なようで、再びサガもカノンもお互いを睨んだが、すぐに止めた。
「ああ。、これから宜しく頼む。」
「俺も、今まで通り宜しくな」
カノンの方はサガよりも心中は複雑だった。
傷が完治するまで手当てを受け、に心を開き、またも自分を想っている―そんな気持ちを抱いていただけに。
全くサガめ。何処まで俺の邪魔をすれば気が済むのだ。は渡さん。
静かな殺気を発して居る弟の隣で、サガはの笑顔につられたのか呑気に微笑んでいる。
同じ顔の兄を憎んでいるわけではなかったが…
「じゃあ、サガ、布団はこれ使って。…お母さんのだけど」
「分かった。済まないな、。………!」
黙り込んだサガを見て、カノンはこみ上げる笑いを押さえられなかった。
が差し出した布団は、カバーがピンク地にバラと言う、何とも女性的な(あのアフロディーテ辺りが使って居そうな)代物だったので。
「…どうしたの?サガ」
「い、いや。何でも無いぞ」
かつて教皇を殺害し、この世の神そのものとなるという大それた野望を抱いた、黄金聖闘士最強の男(多分)、型なしである。
は天然なのか、全く悪意を抱いている様子はないので、サガはその布団を受け取らざるを得なかった。
その夜、カノンはベッドの上からちらと下のサガを見下ろし、またこみ上げる笑いを必死にこらえた。
―我が兄ながら、情けないものよな、サガ。
同情しつつも、この兄とと、これから新しい生活を始める事が、何だかとても楽しみなカノンであった。
つづく
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